彼の色に染まっていた
初めての社会人の彼氏。新鮮な事も多く、あの頃はとても純粋に彼の事が大好きで、彼に相応しい女になりたいと思っていた。
その彼は普段は寮生活で、休日は近くの実家に帰るのが恒例。
もちろん寮に入ることはできないので、お泊りデートのときは実家に行った。
そしてきれい好きな彼の部屋の中では、いくつかルールがあった。
服は脱ぎっぱなしにせず畳む、布団は決まった畳み方でやる、床に落ちた髪の毛は帰る前にすべて拾う、大量のティッシュゴミはゴミ箱に放置せずコンビニで捨てる、などなど。
服や布団の件は納得できるけど、髪の毛やティッシュの件は…神経質?そう思いつつも、普段いないからこそ生々しい痕跡は残したくないんだろうなと自分に言い聞かせた。
ルール通りにやれば、彼が「やっぱお前イイ女だな」って褒めてくれる。
そう言われるのが好きだった。
彼の部屋で習慣付けていくうちに、自宅や友達の部屋でもそうするようになってきた。
髪の毛を拾い集める私の姿を見た友達から「何やってんの」と言われても、「彼の習慣が身に付いちゃって」と浮かれっぱなし。
「彼氏細かいー!」と批判されても聞く耳持たず。
その細かいルールをきちんと守ることで、絆が深まっているような気がしていた。
でも結局、1年も経たないうちに振られた。
悲しみに暮れながらも、髪の毛が落ちていれば無意識に拾ってしまう。
自分自身の中に彼の欠片が残っているようで、その習慣に心を救われた。
それから何年も経つと、部屋の四隅に髪の毛が溜まるほどになった。
今思い返せば、彼に愛されたい一心で無理していたかもしれないなとしんみりとした気持ちになる。懐かしい思い出。