プライベートジェット
今カフェにいるが、隣のテーブルに座っているカップルの会話がぶっ飛んでいて笑い出しそうだ。
いかにも「バブル世代」の二人。
彼の方は裸足でデッキシューズを履き、短パンをはいている。
女性の方は、ツバが広い「女優帽」を被っている。
ショッピングモールなのに、違和感がある二人は会話もぶっ飛んでいる。
正月にハワイに行く予定にしているのに、飛行機をどうしようか話している。
今年の正月は祝日の並びが良いため、すでに旅行が大人気。
ハワイ行きの席が取れないらしい。
話している間も、彼女の方はスマートフォンでゲームに興じていた。
その間、色々と航路を調べている彼。
韓国の航空会社だったら取れるみたいだけど、と彼が検索結果を話したけど、彼女はゲームしながら一言で「それは嫌!」と言い放った。
しばらく彼はスマホを扱っていて、しばらくして、「1000万円くらいなんだけど、プライベートジェット機。これくらいで飛ばせるんだ〜」と言い出した。
しかも店内に響き渡るんじゃないかという大声で。
実際はこういう人って、堅実に生活しているんだと思うけど、周りに人がいるときの見栄っ張りとして、プライベートジェット機というワードを口走るのだろう。
現実感がない話で、隣にいた私は吹き出しそうだ。
頭の中、お花畑状態というべきだろうか。
結局正月のことについて何も話が続いていなかったが、それでもなんとかなるでしょ〜!という姿勢だったのが更に笑える。
なんだかんだ言って、憎めない人たちだと思う。
コーヒーショップで人目を気にするカップル
繁華街のコーヒーチェーン店は狭い店内に押し込むようにテーブルが配置されていて、私は一番奥の席にいた。
隣の席にはカップルが座り、椅子を引いてもらわないと通れないので、ひと声かけようとしたが、どうもカップルの様子がおかしい。
聞こえてくる会話の断片から判断するに、深刻な喧嘩の真っ最中だ。
これは気まずい。
コーヒーは飲み終えたし、次の予定もあるので席を立ちたいのだが、声をかけられる雰囲気ではなく、私は無意味に手帳を開いて眺めるふりをしながら、カップルの喧嘩が速やかに収束することを祈った。
押し殺した声で彼女が彼を責めている。
あぁ、それはいけない。
彼女の友人に手を出すなんて駄目だろう…彼が開き直ったよ、最悪。
時間を気にしつつも彼女を内心応援しはじめた私。
何でこんな男に固執するのか、彼女からふってしまえばいいのに。
私の勝手な応援もむなしく、彼は捨て台詞とともに席を立った。
心ならずも彼女の失恋の瞬間に居合わせてしまった私は、ペーパーナプキンで涙をぬぐう彼女に黙ってハンカチを手渡し、心の中で「大丈夫!男はいくらでもいる!」とエールを送ると、狭いテーブルの間をすり抜けて外へ出た。
こうしたシーンは、ヒモと風俗嬢が相場と思い込んではいたが、ふたりとも真面目そうなカップルであったのが驚いた。
男女の痴話喧嘩は身分を超える。
その横で、オジサンと若いお姉さんが真剣に会話をしていたが、その内容はシフトだの日給だの送迎だのと言っていたので、多分、裸のお仕事なのだろう。